今回から、「ミドルシニアが挑む!デジタル化で実現する業務改革:リモートワークからCRM、オンラインショップまでの6か月間の成長ストーリー」と題し、IT・デジタルの活用により変革を続ける中小企業の様子を、架空の物語形式でお伝えすることにしました。架空とは言え、筆者のこれまでのコンサルティングや研修経験を題材にしたものにはなっています。皆様の組織内の様子と重ね合わせながら、ご覧ください。
目次
第1話:リモートワークへの挑戦 ー 紙文化からの脱却
- 登場人物
- 吉田 義男(よしだ よしお) – 経営者。会社全体のデジタル化を強く推進したいと考えており、リモートワークの導入に積極的。
- 鈴木 誠一(すずき せいいち) – バックオフィス部門のマネージャー。50代後半で、長年の経験に基づいて業務を進める保守的なタイプ。デジタル化に対して懐疑的だったが、吉田の意向を受け、少しずつ前向きに取り組み始める。
- 山田 太郎(やまだ たろう) – 東日本チームのリーダー。40代で、部門内では比較的柔軟な考えを持ち、変化を受け入れられるタイプ。ITに苦手意識はあるものの、時代の変化に合わせるべきだと考えている。
- 佐藤 美咲(さとう みさき) – 西日本チームのリーダー。30代でITリテラシーは高く、プライベートではリモートワークを取り入れている。デジタル化の推進に積極的。
- 田中 弘樹(たなか ひろき) – 東日本チームのメンバー。デジタル化には大賛成で、個人的に勉強してITスキルを少しずつ獲得している。業務にITを活かしていきたいという強い意欲を持っている。
- 村上 修一(むらかみ しゅういち) – 西日本チームのメンバー。これまでの紙ベースでの業務やマニュアル作成の中心的役割を担ってきた。自身の作ってきたものが無価値になるのではという不安から、デジタル化に抵抗感を持っている。
- 渡辺 健太(わたなべ けんた) – コンサルタント。鈴木や他のミドルシニア世代の社員と同世代で、これまで製造業、流通業、そして今回のような卸売業など、多様な業界でデジタル化を手掛けてきた。従業員と同じように、時代の変化に対応しながら働いてきた経験から、彼らの不安や悩みに寄り添い、安心感を与える存在。
第一章:変革の始まり
「鈴木さん、少しお時間をいただけますか?」
佐藤美咲は、鈴木誠一のオフィスを訪れると、そう切り出した。彼女の手には分厚い書類の束が抱えられている。これらは、社内の業務フローに関する資料だ。洋酒の輸入卸売を手掛けるこの会社では、受注から配送までのプロセスはすべて紙の指示書と報告書を通じて行われている。
「この量の紙を毎日扱うのは大変ですよね?チーム全員が紙の山に囲まれて仕事をしている姿を見て、業務の効率化について考えていました。」
美咲の言葉に、鈴木は軽くため息をつく。
「確かに、デジタル化したほうが便利かもしれないが…、どうもな…長年これでやってきたからなあ。」
彼の気持ちは理解できる。バックオフィス部門には、40代から60代のミドルシニア世代が多く在籍しており、業務の多くはこれまで通りの「紙文化」で行われている。毎朝、鈴木が配る受注指示書をもとに、スタッフは手作業で業務を進めていく。問題が発生すれば、指示書に赤ペンでコメントを入れ、再度回覧する。そこには、ある種のアナログ特有の安心感があった。
しかし、経営者の吉田義男はそうした業務フローに限界を感じていた。特に、コロナ禍以降、リモートワークを十分に活用できていないことが大きな問題となっていた。デジタル化が進んでいないため、出社が必須となり、感染症リスクを考慮した対応が十分にできていなかった反省から、急ぎ、リモートワーク化を進めようとしたのだが、上手に活用できていない業務や従業員が多く、今では、限られた一部の従業員だけが活用する状況にとどまっていた。
「吉田社長からの指示もありますし、IT研修を通じて、業務全体をデジタル化していくことを検討しましょう。」
美咲は、少しずつ前向きな姿勢を見せる鈴木に、今回の取り組みについて説明を始めた。
第二章:IT研修からの第一歩。まずは「学び」から。
「まずは、リモートワークに欠かせない基本的なITスキルの習得から始めましょう。」
研修初日、鈴木を含むバックオフィス部門のスタッフ10名が会議室に集まった。部屋には大きなスクリーンと、全員のパソコンが設置されている。講師として招かれたのは、コンサルタントの渡辺健太だ。鈴木や他のスタッフと同世代の彼は、さまざまな業種でのデジタル化を手掛けてきた経験を持っている。
コロナ渦に急ぎリモートワーク環境を取り入れた際は、機器やソフトウェアの用意は進めたものの、使い方や操作方法などは個人任せとなってしまい、会社としてきちんとしたサポートをできていなかったことが、現状の課題・問題につながっている。そう考えた社長の吉田は、全従業員が必要な知識・操作をきちんと学べる機会づくりを、あらかじめ、渡辺に依頼していたのだ。
「みなさん、今日はお忙しい中ありがとうございます。私は渡辺と申します。同じ世代ですので、みなさんがこれまでどのような変化を経験してきたのか、よく理解しているつもりです。」
渡辺は、そう自己紹介をすると、軽快な口調でリモートワークの利点を説明し始めた。
「リモートワークというと自宅で仕事をするだけと思われがちですが、ITツールを使いこなせば、これまで以上に効率的な働き方ができます。今日は、Zoomを使ってオンライン会議の基本操作を学びましょう。」
渡辺は続けて、紙ベースの業務からデジタル化への移行が、どれほどの苦労を伴うものかを語り出した。彼自身も、かつては紙の指示書や帳票を使った業務を経験してきており、そのような状況からのデジタル化移行を数々支援してきた経験がある。
「みなさん、これまで私たちは、ワープロがパソコンになり、FAXがメールに代わるという時代の変化を目の当たりにしてきました。私はその変化を、みなさんと同じ立場で経験してきました。」
スタッフたちは、彼の言葉に思わずうなずいた。自分たちと同じ苦労を知っている彼の話は、説得力があり、心に響いたのだ。
「変化は確かに不安を伴います。でも、その一方で新しいツールを覚えることで、仕事の幅が広がり、これまでできなかったことが可能になることも事実です。」
バックオフィス部門のスタッフたちは一様に緊張した表情を見せていたが、渡辺の言葉に耳を傾けながら、少しずつリラックスしていく様子が見られた。
健太が説明を続ける中、東日本チームの田中弘樹は自ら操作を試み、同僚にアドバイスをしていた。
「ここで画面共有をすれば、みんなで同じ資料を見ながら話せますね。」
一方、西日本チームの村上修一は、研修中もどこか居心地の悪そうな表情をしていた。長年の紙ベースでの業務と、マニュアル作成を担当してきた彼にとって、デジタル化は自分の役割を否定されるような感覚があったからだ。
「これじゃ、俺の作ったマニュアルは無駄になってしまうのか…。」
村上のつぶやきを渡辺は聞き逃さなかった。
「村上さん、今までの経験や知識は、デジタル化の中でこそ活かせるんですよ。私も、紙ベースの業務からデジタル化に移行した際、同じような悩みを持っていた時期があります。新しいツールを取り入れることで、これまで作ってきたマニュアルや業務フローが一度は無意味に思えるかもしれません。でも、それらを土台にして新しい形にアレンジすることで、もっと多くの人に役立つことができるんです。」
村上は、渡辺の言葉に少し考え込んだ。
「新しい形か…。確かに、ただ単に紙のマニュアルをそのままデジタルに変えるのではなく、もっと見やすくしたり、検索しやすくしたり、今までのやり方を活かせるかもしれないな。」
渡辺は優しく微笑みながらうなずいた。
「そうなんです。村上さんが長年かけて培ってきたノウハウは、デジタル化されることでさらに価値が上がります。リモートワークやデジタルツールを活用すれば、これまでの経験がより多くの人に伝わり、業務の効率化にも繋がる。村上さんにしかできないデジタル化の方法が必ずあるはずです。」
その言葉を聞いた村上は、これまで感じていたデジタル化への抵抗感が少し和らいだように感じた。
「そうだな…俺も今までの経験を活かして、デジタル化を支えてみるのも悪くないかもしれない。ありがとう、渡辺さん。」
渡辺は笑顔で答えた。
「お互い、経験してきたことを次のステージに活かしましょう。私も一緒に歩んでいきますから。」
こうして、村上は少しずつデジタル化への不安を乗り越え、前向きな気持ちで研修に臨むことができるようになった。彼の姿勢が変わると、西日本チームのメンバー全体の雰囲気も自然と明るくなっていった。
第三章:リモートワーク導入の効果
研修を通じて、鈴木や他のスタッフはリモートワークツールの基礎を習得した。翌週からは、試験的にリモートワークを実施することが決まった。まずは、業務の一部を自宅で行い、書類のやりとりをデジタル化した上で進めることになった。
「リモートワークだと、移動時間がゼロになるので、朝の時間を有効に使えますね。」
東日本チームの山田がそう感想を述べた。リモートワークに対してネガティブな印象を持っていた彼も、実際にやってみると、その利便性を実感していた。出社しなくても、メールやチャットで簡単に指示を出し、オンラインで会議を行うことができる。美咲は自宅からも積極的にコミュニケーションを取り、チームの雰囲気を盛り上げていた。
「思ったよりスムーズにいくな…。」
鈴木は、自分のペースで業務を進められることに驚きを感じていた。リモートであっても、受注処理や指示書の確認を効率的に行えるようになったのだ。
吉田社長も、今回のリモートワークの結果に目を細めていた。
「鈴木さん、皆さんが頑張ってくれているおかげで、会社全体の業務効率が格段に上がりました。働きやすさも向上しているようですし、これからも引き続きリモートワークの定着を図りましょう。」
経営者からのその言葉に、鈴木は少しだけ誇らしい気持ちになった。自分たちが変わろうと努力していることが、会社の成長に繋がっているという実感が湧いてきたのだ。
「リモートワークのおかげで、指示書の確認にかかる時間も短縮されました。今までは全員で紙の回覧を待っていましたからね。」
東日本チームの田中がそう言いながら、画面をクリックする。デジタルデータとして共有される指示書は、どこにいてもリアルタイムで確認できるため、スタッフ全員が同じ情報を同時に共有できるようになった。
西日本チームの村上も、少しずつデジタルツールの便利さを理解し始めていた。最初は違和感を感じていたオンラインツールも、慣れてくると効率的に感じられるようになったのだ。
「今までのマニュアルも、少し工夫すればオンライン用に変えられそうです。」
村上がそう言ったとき、美咲は嬉しそうに微笑んだ。
「村上さんの経験は、オンライン研修のマニュアル作りにも活かせるはずです。これからも一緒に頑張りましょう!」
彼の顔にも、ようやく前向きな表情が見られるようになった。
第四章:次のステップへ
「さて、次はオンラインでの受注管理をCRM(顧客管理システム)で行ってみましょう。」
研修第2回目のテーマとして、渡辺はデジタル化の効果をさらに強化するための新たな提案をした。これまで紙で管理していた顧客情報をデジタルデータとしてまとめることで、受注から配送指示までのプロセスをオンラインで一括管理することが可能になるという。
「デジタル化することで、さらに業務を効率化できると確信しています。次回の研修では、CRMの使い方を学んで、よりスムーズな業務運営を目指しましょう。」
渡辺の言葉に、鈴木は一瞬戸惑った。リモートワークの導入に成功しつつあるとはいえ、顧客情報のデジタル化はこれまでのやり方を大きく変える挑戦だったからだ。
「CRMの導入か…難しそうだな。」
そんな鈴木の不安を見透かすように、田中が笑顔で声をかける。
「僕も最初はそう思っていました。でも、オンラインで顧客情報を管理することで、わざわざ倉庫に保管してある書類を取りに行かなくても済みますし、いつでも顧客情報を確認できるようになるんです。」
彼の言葉を聞いた鈴木は、少しだけ前向きな気持ちになった。田中のように、社員一人ひとりが新しいスキルを学び、仕事を効率化していけるなら、自分ももう少し頑張れるかもしれない。
「よし、次はCRMだな。しっかり学んで、さらに業務を効率化していこう。」
鈴木の力強い宣言に、部屋の雰囲気が一層明るくなった。
最終章:新たな目標に向けて
研修終了後、吉田社長が鈴木のもとを訪れた。
「鈴木さん、皆さんの頑張りのおかげで、リモートワークがスムーズに運用できるようになりました。これからはCRMを活用して、さらなるデジタル化を目指していきましょう。」
吉田は続けてこう言った。
「実は、デジタル化が進むことで、これまで以上に個々の働き方に柔軟性を持たせることができるんです。ミドルシニア世代の皆さんにとっても、デジタルスキルを身につけることで、今後のキャリアの選択肢が広がると考えています。社員が希望すれば、ライフステージの変化に応じた働き方で安心して仕事を続けられる、そんな会社にしていくためにも、デジタル化を継続的に進めたいと考えています。」
鈴木は静かにうなずいた。
「今まではITに対して抵抗感があったけど、研修を受けて少しずつ変わってきました。自分も含めて、ミドルシニア世代がデジタルスキルを身につけることは大切ですね。」
吉田は鈴木の言葉に優しく微笑んだ。
「その通りです。これからの時代、年齢に関係なくデジタルスキルは必要なものです。でも、鈴木さんたちのように業務を熟知したベテラン社員がデジタルツールを使いこなすことは、若い社員にはできない強みです。だからこそ、全員でこのデジタル化を成功させましょう!」
吉田の言葉に、鈴木の心の中に熱いものがこみ上げてきた。
「やってやろうじゃないか…」
鈴木は心の中でそう誓った。そして、これまで紙で管理してきた顧客情報をすべてデジタル化し、CRMを使いこなして会社全体の業務効率をさらに向上させるための次のステップに進むことを決意した。
エピローグ
こうして、リモートワークの活性化を第一歩として始まったデジタル化の取り組みは、少しずつ社内に浸透していった。鈴木や村上のようなミドルシニア世代の社員たちも、初めは戸惑いや抵抗を感じていたが、IT研修や実際の業務を通じて、少しずつデジタルツールの活用に慣れていった。
東日本チームの田中は、自身が習得したITスキルを活かして新たな社内ツールの導入を提案し、業務効率化の推進役として活躍。西日本チームの村上は、これまでの紙ベースのマニュアルをデジタル化し、オンラインでの業務マニュアルを作成。自らが作った新しいマニュアルが全社に広まり、業務改善の一助となったことに大きな達成感を覚えた。
そして、吉田はCRM(顧客管理システム)を導入し、顧客情報の一元管理を進めるとともに、次なるステップとして、オンラインショップの開設を目指すことを宣言した。これまでのアナログな手法をデジタルに置き換え、さらには業務プロセスを効率化することで、新しいビジネスチャンスを掴むことが可能になると考えていたのだ。
「我々の会社は変わり始めました。紙文化に慣れ親しんでいた私たちが、デジタルの波に乗って業務を改善できたのは、ミドルシニアの皆さんが変化を受け入れてくれたおかげです。これからは、デジタル化を通じて、さらに新しい事業にもチャレンジしていきたいと思います。」
社内に向けた吉田のスピーチに、鈴木や村上、そして他の社員たちの表情には満足そうな笑みが浮かんでいた。
「次の6か月では、さらに進化した姿をお見せできるよう、皆さんと共に歩んでいきます。引き続き、ご協力をお願いします!」
こうして、リモートワークから始まったデジタル化の取り組みは、CRMの導入を経て、次はオンラインショップの開設へと進むことになった。ミドルシニア世代の社員たちが自らの経験と新しいスキルを活かし、デジタル時代に挑戦し続ける物語は、まだまだ続いていく。
次回、第2話では、「CRMを活用した顧客管理」をテーマに、リモートワークをさらに効果的に活用するための新たな挑戦が始まります。ミドルシニア世代の挑戦と成長の物語は、まだ始まったばかりです。彼らがどのようにして会社全体のデジタル化を進めていくのか、次回もお楽しみに。