デジタル化が進む現代、ITスキルはどの年代にとっても必要不可欠なものとなっています。今では、高校生が「情報Ⅰ」という科目でITの基礎を学ぶ一方、ミドルシニア世代の社員はそのような学びの機会を持たないまま社会人になった方が多いのが現状です。
会社の全体方針としてデジタル化を推進する中、学び直しの場を提供することは、社員に新たな挑戦を促すきっかけになるだけでなく、個々の可能性を引き出す場にもなります。ITやデジタルなど業務に直接関与する内容を学びあい、教えあうことで、チーム内の信頼感や会社への愛着が生まれるかもしれません。
この記事では、高校生が学んでいる「情報Ⅰ」のカリキュラムをわかりやすく解説し、それをミドルシニア社員に学び直しの形で提供することが、企業全体にメリットをもたらす可能性があるかを考察してみます。また、経営者や人事担当者の皆様が検討できる学習機会のアイデアもご提案します。
目次
1. 高校生が学ぶ「情報Ⅰ」とは?
2022年度から必修化された「情報Ⅰ」は、高校生が情報社会で活躍するための基礎的なITスキルを学ぶ科目で、この科目の狙いは、情報活用力を養うことで社会人としての基礎力を形成することとされています。実際に、どのような内容を学習しているのか、その具体的なカリキュラムを見てみましょう。
1.1 主なカリキュラム内容と学習テーマ
情報デザイン
情報を整理してわかりやすく伝える力を育成する分野です。
- 学習テーマの例
- 「売上データを棒グラフで可視化する」
- 「プレゼン資料での配色やレイアウトの工夫」
- 「SNSで情報を発信する際の見やすい構成」
プログラミング基礎
アルゴリズムやプログラミング言語を用いた問題解決能力を学びます。
- 学習テーマの例
- 「Pythonで四則計算プログラムを作る」
- 「条件分岐を活用した簡単なゲーム開発」
- 「ロボットの動きをプログラムで制御する」
ネットワークとセキュリティ
インターネットや情報の安全性に関する基礎知識を習得する分野です。
- 学習テーマの例
- 「Wi-Fiの仕組みを理解する」
- 「フィッシングメールを見分ける方法」
- 「セキュアなパスワードを設定する重要性」
データ活用(データサイエンス入門)
データを分析して意思決定に役立てるスキルを学びます。
- 学習テーマの例
- 「アンケートデータの平均値や分散を計算する」
- 「顧客データをもとに購買傾向を分析する」
- 「エクセルでピボットテーブルを作成」
情報モラル
情報社会で求められる倫理観を育む内容です。
- 学習テーマの例
- 「SNSでの誹謗中傷を防ぐための注意点」
- 「ネット上のフェイクニュースを見抜く力」
- 「著作権や引用ルールを学ぶ」
内容は、いかがですか? 昔(私が児童の頃など)は、「こんなの勉強して、将来何の役に立つの?」といった声が聞こえたものですが、上記の内容は、日常生活や職場での活動や課題解決に直結する内容となっていることが分かります。これまで体系的にIT基礎を学ぶ機会が無かった、ミドルシニア社員の方々が役立てられる学びが詰まっていますよね。
2. ミドルシニア社員が直面するITスキルの課題とその解決
ミドルシニア世代が基礎ITスキルの学習機会を持てなかった背景には、当時のIT技術レベルや教育カリキュラムの違いがあります。社会人として活動する中で、学びの機会が少なかったために直面する課題を見ていきましょう。
2.1 ミドルシニア社員が直面するITスキルの課題
業務のデジタル化
エクセルやクラウドツールの操作に苦手意識を持つミドルシニア社員が、業務効率化の流れに遅れを取ることがあります。また、そのような社員の存在が会社全体の業務効率化の停滞原因になってしまうこともあります。
セキュリティ意識の不足
日常的にネットワークを利用する環境において、ウイルス感染や情報漏洩のリスクが増大しています。
DX推進の障壁
デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進には、社員全員が一定以上のデジタルリテラシーを持つ必要がありますが、「デジタルが苦手」という意識が障壁となってしまうケースが少なくありません。
2.2 「情報Ⅰ」を参考にしたミドルシニア向け学習機会の提案
「情報Ⅰ」で学ぶ内容を参考に、ミドルシニア社員向けにカスタマイズした学習機会を提供することで、課題解決につなげることができます。提供する学習機会の形もさまざま、次のような機会を提供してみるのはいかがでしょうか。
社内研修プログラム
高等学校「情報Ⅰ」をモデルにした研修を導入し、実践的なスキルを社員に提供します。例えば、社員が集まって「Python入門で業務効率化ツールを作る」のような実務型の課題に取り組むと、すぐに活用ができて、学習効果を実感しやすいかもしれません。
オンライン講座
eラーニングを活用して、社員が自分のペースで学習できる環境を整えます。ミドルシニア世代は、書籍やオンライン講座など、自分に合った学び方で取り組みたい方が多い傾向があります。「ネットワーク基礎講座」や「セキュリティの基本」など、知識獲得が主となる学習テーマにはオンライン講座が向いていると言えます。
世代を超えた学習コミュニティ
若手社員とミドルシニア社員が学び合う仕組みを作り、世代間の相互理解を深めるのも良いでしょう。普段の業務活動では、知識・経験が豊富なミドルシニア世代から若手世代に教えるということが多いはずです。ITスキルは「若手からミドルシニア世代へ」という逆の流れができると、より良いチームワークづくりにもつなげられそうです。
学び直しがもたらす未来
「情報Ⅰ」で学ぶ基礎ITスキルを、ミドルシニア社員にも学び直し(リスキリング)の形で提供することは、企業にとって多くのメリットをもたらします。社員一人ひとりが新たなスキルを身につけることで、個々の成長がチームの活力となりますし、さらには会社全体の生産性向上やリスク低減にもつながります。
また、学び直しの場は、単なるスキルアップにとどまらず、社員同士の信頼感やコミュニケーションを深める契機にもなります。特に、若手社員とミドルシニア社員が共に学び合う機会を設けることは、世代間の壁を越えた協力体制を構築できる可能性も広がります。こうした環境が整うことで、組織全体の雰囲気が明るくなり、次なる目標に向けて一丸となって進むエネルギーが生まれるでしょう。
さらに、ミドルシニア社員が自ら学び直す姿勢を見せることは、他の社員にとっても良い刺激となります。「新しいことを学ぶのに年齢は関係ない」という前向きなメッセージが、企業全体にポジティブな波及効果をもたらします。その結果、組織内の風通しが良くなり、イノベーションを生む土壌が育まれることも期待できます。
学びの場が、ただの知識獲得の場にとどまらず、社員一人ひとりが自分自身の可能性を再発見し、働く喜びを再確認する場となることが理想です。このような取り組みが、企業の未来をより強固なものとし、時代の変化に柔軟に対応できる組織を作り上げる一助ともなるでしょう。
この機会に、ミドルシニア社員の学び直しを支援し、新しい未来を一緒に切り開いていきませんか?