この「業務改革」ストーリーも4話目を迎えました。物語としての完成度の未熟さは、素人ライター(=私)ゆえ、ご容赦いただきたいところですが、いくらかでも業務改善過程をイメージいただきやすくなるのであればということで、架空のシチュエーションに、私が多くのコンサルティング活動の中で実際に発生した状況を織り交ぜ、ご紹介します。もし、この話の中の「山田は、うちの会社でいうと○○のことかな?」と顔が浮かぶようであれば、皆様の組織も順調にIT・デジタル化改善、進みますよ、きっと。
さて、今回は、「ミドルシニアが挑む!デジタル化で実現する業務改革」の第4話をお届けします。オンラインショップ開設を目前に、社員たちは自信を持って作り上げたサイトを家族や知人に披露し意見を集めることに。しかし、予想以上の改善点が次々と挙がり、特にスマートフォンやタブレットでの使いやすさに大きな課題が見つかります。利用者視点での設計の重要性に気づき、技術知識だけでなく「人を中心にした設計」の必要性を痛感する彼らの成長を描きます。
目次
第4話:現場から学んだUI/UXの重要性 ― ユーザー視点での改善と新たな気づき
- 登場人物
- 吉田 義男(よしだ よしお) – 経営者。会社全体のデジタル化を強く推進したいと考えており、リモートワークの導入に積極的。
- 鈴木 誠一(すずき せいいち) – バックオフィス部門のマネージャー。50代後半で、長年の経験に基づいて業務を進める保守的なタイプ。デジタル化に対して懐疑的だったが、吉田の意向を受け、少しずつ前向きに取り組み始める。
- 山田 太郎(やまだ たろう) – 東日本チームのリーダー。40代で、部門内では比較的柔軟な考えを持ち、変化を受け入れられるタイプ。ITに苦手意識はあるものの、時代の変化に合わせるべきだと考えている。
- 佐藤 美咲(さとう みさき) – 西日本チームのリーダー。30代でITリテラシーは高く、プライベートではリモートワークを取り入れている。デジタル化の推進に積極的。
- 田中 弘樹(たなか ひろき) – 東日本チームのメンバー。デジタル化には大賛成で、個人的に勉強してITスキルを少しずつ獲得している。業務にITを活かしていきたいという強い意欲を持っている。
- 村上 修一(むらかみ しゅういち) – 西日本チームのメンバー。これまでの紙ベースでの業務やマニュアル作成の中心的役割を担ってきた。自身の作ってきたものが無価値になるのではという不安から、デジタル化に抵抗感を持っている。
- 渡辺 健太(わたなべ けんた) – コンサルタント。鈴木や他のミドルシニア世代の社員と同世代で、これまで製造業、流通業、そして今回のような卸売業など、多様な業界でデジタル化を手掛けてきた。従業員と同じように、時代の変化に対応しながら働いてきた経験から、彼らの不安や悩みに寄り添い、安心感を与える存在。
第一章:渡辺の提案とチームの反発
オンラインショップの開設を目前に控えたある日、バックオフィス部門の社員たちは完成したサイトの最終確認を行っていた。これまでの研修やITスキルの習得を通じ、試行錯誤を重ねて形にしたこのサイトに、メンバー全員が自信を持っていた。
「ようやく形になったな。動作の不具合もなくなった。一通りの機能も揃っているし、これで大丈夫だろう。」
鈴木が満足そうに画面を眺めると、他のメンバーも「これで合格だ」と納得した表情を浮かべていた。しかし、コンサルタントの渡辺は、その自信に満ちたメンバーの姿勢を見て不安そうな表情を浮かべている。果たして、内輪だけの視点で評価を決めることが果たして適切なのだろうか、そんな疑問が頭をよぎっていたからだ。
渡辺はこれまで様々な業界でシステムやサービスの立ち上げに携わってきた。経験の中で成功も失敗も積み重ね、利用者目線での設計の重要性を身をもって理解している。自画自賛でサービスを開始したが、想定不足で軌道に乗らなかったサービスもたくさんあった。だからこそ、早い段階から「ユーザーからのフィードバック」を活かす必要性を感じているのだ。
そこで渡辺は、チームの雰囲気に水を差すことになるのを覚悟で、チームに意見を投げかけた。
「みなさん、ここまでよく頑張りましたね。でも、せっかく完成したサイトですから、一度、ご家族、知人や取引先の方などに見てもらって、現状に対する率直な意見を聞いてみるのはどうでしょうか?」
この提案に対し、チーム内には戸惑いの空気が流れた。特に、鈴木や山田は、せっかく自分たちで作り上げたサイトに対する外部の意見を聞く必要があるのかと疑問に感じていた。
「せっかく自信を持って仕上げたのに、そんなことをする意味があるのか?」
一部のメンバーは、渡辺の提案に対し、内心で反発心を抱いていたが、これまで、研修などさまざまな機会で真摯に自分たちと向き合ってくれた渡辺の提案を却下することにもためらいを感じた。そこで、試しに、佐藤が自分の家族にサイトを試用してもらい、そのフィードバックをもらうことに決まった。
第二章:予想外のフィードバック
数日後、佐藤が家族からのフィードバックを持ち帰ってきた。その内容は、チームが思い描いていた理想とは大きく異なっていた。
「両親、兄や妹にスマホで使ってもらったんですが、商品が見にくいとか、ボタンが小さくて押しづらいという意見がありました。」
佐藤の報告を聞いた瞬間、チーム全員が困惑の表情を浮かべた。鈴木もまた、「必ずしも、全員がそう感じるわけではないのではないか?」と半信半疑だったが、この話をきっかけに、他のメンバーもそれぞれ、可能な範囲で周囲の意見を集めることにした。
すると、同じような意見やさらに多くの改善点が次々と挙げられた。特に、パソコンでの操作性に特化して設計していたため、スマートフォンやタブレットでの操作性が十分に考慮されていなかったことが大きな問題として浮かび上がった。
「確かに、どのような端末でサイトを利用するかは人それぞれ。たった、数十人の操作性さえ満足させられない仕上がりになっていた。視野が狭かったのかもしれない…。」
各方面から寄せられたフィードバックに直面したチームは落胆し、自分たちが自信を持っていたサイトの完成度に対して疑問を抱き始めた。
このとき鈴木は、以前に受けた外部セミナーを思い返した。そのセミナーでは、いわゆるITエンジニアが講師を担当し、技術的なことやプログラミングが中心で、利用者目線のUI/UXの重要性についてはほとんど触れられていなかった。一通り操作できる、操作不具合さえなければサイトは完成、そんな技術視点に絞って取り上げたセミナーだったということだ。今回の渡辺の意見は、「サイトが出来上がるところまで」はゴールではなく、「サイト運営でビジネス的なインパクトを生み出すこと」をゴールに考えれば、当然に考えるべきものだったのだと、鈴木は腹落ちした。
第三章:UI/UXの重要性と「ヒト」を中心にした設計
各方面から集めた意見を受け、社員たちはUI(ユーザーインターフェース)とUX(ユーザーエクスペリエンス)の重要性を改めて認識した。これまでは「自分たちが便利だと感じるサイト」を目指していたが、実際にサイトを利用するユーザーの視点から考えると、想定外の不便さがいくつも存在していることを痛感したのだ。
「技術的に正しくても、使いやすくなければ意味がない。私たちの知識や考えを押しつけるのではなく、実際に使う人の視点を意識しないといけないんだ。」
鈴木は、自分が身につけたIT知識が顧客に必ずしも有用であるわけではないことに気づき、改めて「顧客視点を意識した設計」が重要であると実感していた。一方で、村上もこれまでのマニュアル作成経験を振り返り、システムを使う人の行動を予測し、誰にでも直感的に理解できるような設計がいかに重要であるかを痛感していた。
「技術を使いこなすだけじゃダメなんだな。最終的に使うのは『人』なんだから、その視点がなければどんなシステムも中途半端になってしまう。」
村上は、サイト設計が人に優しいものであるべきだと考え直し、今後の改善点を再度洗い出し始めた。コンサルタントの渡辺は、彼らの姿勢に安心し、UI/UX改善のアドバイスを続けていた。
「やはり、お客様の視点に立ったサービスが本当に求められるものです。デザインや機能の追加も大事ですが、どのような顧客に向けて最適化するか、その顧客の使いやすさを増すためにはどうすれば良いかを考えることで、より満足度の高いサービスに仕上がりますよ。」
渡辺の助言を受け、社員たちは「ITの学びが技術や知識に偏るだけでは実際の現場で役に立たない」ということを実感し、ユーザー視点での設計に目を向けたことで、より意義のあるIT施策を進める意欲が強まった。
第四章:社長からの明確な方針
社員たちが自信を持っていたアウトプットをさらに改善する姿を目の当たりにした吉田社長は、メンバーの成長を改めて実感し、信頼を深めた。そして、吉田はプロジェクトの方針についても大きな決断を下した。
「サービスの開始時期を優先して、お客様の満足度を損なうサイトを公開するのではなく、しっかりとお客様の満足を考えたものにしよう!」
この決断が、チーム全体の再検討への意欲をさらに後押しした。サービスの開始に焦るのではなく、まずは質の高い体験を提供することが大切だという社長の方針に、社員たちは再度気を引き締めた。
「吉田社長が、私たちに信頼を寄せてくれている。だからこそ、私たちも妥協せず、最高のサイトを完成させたい。」
鈴木は、社長の言葉に勇気づけられ、社員全員が一丸となってUI/UXの改善に取り組むことを決意した。村上や田中もそれに応え、細かな操作性の向上やデバイスごとの視認性の検証を繰り返しながら、ユーザーにとって心地よい体験を追求していった。
トップである吉田が、最も優先すべきことは何か方針を明確に表明したことによって、彼らの意識が、顧客の視点を真に理解し、ユーザーの満足を最優先に考えるという企業全体の理念へと昇華していった。「納期も大事、コストも大事、品質も大事」と具体的な方針や優先度を示せないトップも少なくない、それに比べると、社長を含め一丸となって取り組める様子が、コンサルタントの渡辺にはとても輝かしく映っていた。
エピローグ
チームは、多くのフィードバックをもとに、デバイスごとに異なる操作感を反映し、サイトの操作性を大幅に改善した。顧客目線でのUI/UXを追求する中で、「技術を使うこと」から「人を考えた設計」へと意識を変わっていった。
「技術をただ導入するだけでなく、最終的にどうお客様に喜んでもらえるかを考えることが本当に大切なんだ。」
鈴木がそう話すと、他の社員も力強くうなずいた。IT・デジタルといった技術的な面にばかり意識が集中していたが、お客様の満足を高めるためにという点では、これまで現場では当然に考え、行動してきたのと何も変わりはないのだと認識するきっかけになったのである。
社長の吉田も、社員たちの成長と気づきを喜び、この経験が、今後のサービス向上に直結し、自社内で顧客満足度を最優先に考えたサービス設計が根付くと確信していた。顧客の満足度向上を最優先に掲げたチームの姿勢は、社内外に良い影響を与え、今後のサービスや製品の改善、社内外を問わず継続的なデジタル推進にも活かされていくことだろう。
第5話では、これまでの経験をいかに他の従業員や将来の従業員に広め、全社的なスキルアップにつなげていけるか、自社内でデジタル化推進を継続していくために取り組む研修体制づくりを描きます。社員たちが講師として自ら学んだことを次世代に共有し、企業の成長に貢献する姿をご紹介予定です。お楽しみに。